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一覧へ戻る医師が教える海外出張のポイント! インド編
経済成長率は7%超えを続けており、今後も世界で最も成長する国の一つであるインド。
ビジネスパーソンのインドへの出張・赴任はこの先増えることはあっても減ることはないでしょう。
インドといえば、おなかが痛くなる、感染症が多そうなど、健康に関するリスクも高そうなイメージがあります。しかし、具体的にどのようなリスクがあるのか、どのように備えればいいのかご存知でしょうか。
今回は、渡航医学の観点から、ビジネスパーソンがインド出張を安全に過ごすためのポイントをお伝えします。
食べ物でうつる感染症は?
インドでは、旅行者下痢症や腸チフスなどのいわゆる”おなかの感染症”が多く発生します。
おもな理由の一つが「水」です。
日本のように、上水道が十分に整備されているとはいえず、水道水を直接口にすることは原則できません。飲用にはミネラルウォーターを選ぶのが無難です。
まれにボトルの中身だけが入れ替えられている場合もあるので、必ず開封されていないことを確認しましょう。
また、食事で感染するもののうち、A型肝炎はインドなどの途上国で多い感染症です。
A型肝炎が発症する頻度は衛生環境の指標になるともいわれており、実際、日本でA型肝炎を発症する患者数は年間100例程度にすぎません。
現地の人は子どもの頃に感染し免疫をもっていることが多いですが、日本人のほとんどは免疫を持っていないため、対策が必要です。
A型肝炎や腸チフスの予防策として、ワクチンがあります。近年、インドへの出張・赴任の際にこれらのワクチン接種を勧める企業も増えています。
狂犬病対策には傷の水洗いとワクチン
インドでは、神聖な動物として扱われる牛が多いことが知られていますが、牛以上に多く目にするのが犬です。
そして、犬に関係する病気は狂犬病です。
狂犬病はかかってしまうと死亡率ほぼ100%の非常にこわい病気です。犬などの哺乳類にかまれて感染します。
インドは、都市部でも野犬が多く、狂犬病の発症数は年間2万人で世界最多となっています。
したがって、インドで犬を見たら、逃げるが勝ちです。
ただし、いつもうまく逃げられるとはかぎらないので、狂犬病の予防策についても合わせて知っておくのが得策です。
犬に運悪くかまれてしまったら、まず傷を流水で洗いましょう。
狂犬病のウイルスは犬の唾液中に含まれており、それを物理的に洗い流すことで狂犬病が発症するリスクを減らせます。
また、ワクチンによる予防も確立されています。
犬にかまれた後でもある程度有効ですが、滞在先で安全なワクチンが手に入るとはかぎらないので、できれば日本出国の前に接種するのがいいでしょう。
インドの交通マナーは決していいと言えません。
毎年20万人以上が交通事故で死亡しているといわれており、ビジネスパーソンにとって上述のような感染症よりも命に直結する健康リスクといえます。
インドの乗り物といえば、オートリキシャー(いわゆる駆動付き人力車)ですが、自動車との接触事故も多く、とくに交通量が多い地域や時間帯では乗らない、タクシーで代替するなども選択肢になります。
ビジネスパーソンにとっての海外出張は、健康第一です。
現地での健康リスクを知り、それに備えることで、ビジネスに集中できる環境をつくってください。
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岩本 修一
ハイズ株式会社 人材育成戦略部長
内科医(総合診療医)
Certificate in Travel Health®(国際旅行医学会認定資格)
2008年広島大学医学部医学科卒業。内科医として内科診療や渡航外来、医学教育に従事。医療職に対してコミュニケーション学やEBM、プレゼンテーションの教育に携わる。2016年より現職。