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一覧へ戻る「打たれ強さ」の科学 ~レジリエンス入門①~
みなさんは「折れない心を持った人」と言えばどんな人を連想するでしょうか?
私が研修などでこの質問をすると、イチロー選手や五郎丸選手など、アスリート選手のような屈強な人を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
しかし、近年、メンタルヘルスの世界ではこの「折れない心」の概念が明らかになってきており、その印象が変わりつつあります。
そのキーワードが「レジリエンス」という言葉です。
レジリエンス=心理的回復力
一般的に「折れない心」としてイメージされやすいのは、上記のような「屈強な」「鋼の」「頑丈な」というものですが、レジリエンスというのは、ある程度の楽観性を持ち、自分のいる状況に対してポジティブに、不安などの陰性感情に打ち負けない「柳のようにしなやかな」心の持ちようのことを言います。
「心理的な回復力、打たれ強さ」と言い換えてもいいでしょう。
レジリエンスの概念が注目され始めたのは1970年代、ナチスのホロコースト(大量虐殺)を経験した孤児たちの追跡研究でした。
彼らのその後の人生を調査すると、過去のトラウマなどの影響で生きる気力を持てない人たちがいる一方で、前向きにそれを乗り越え、幸せな人生や社会的成功を築く人たちも少なからず存在したのです。
研究者は後者の人たちに注目し、彼らの心の持ちようの中に法則性を発見しようとしたことがレジリエンス研究の始まりだと言われています。
レジリエンスの科学的知見
レジリエンスに関しては、以下の様なことが科学的に明らかになっています。
・状況に一喜一憂しない感情をコントロールする力を持った人は打たれ強い
・失敗を繰り返す中でも、少しずつ成長していると感じている人は打たれ強い
・「周囲に貢献できる」という利他的な人は打たれ強い
・どんな経験も将来の役に立つと考える人は打たれ強い
・楽天家、自信家のほうが打たれ強い
・人間関係が豊かな方が打たれ強い
・ 信仰心が旺盛な方が打たれ強い
いかがでしょうか?
列挙された項目を見ると、「なんだ、やっぱり生来の性格の要素が大きいのではないか」と落胆する人もいそうですがご安心を。
研究成果によりレジリエンスは「訓練により習得可能である」ことがわかってきています。
例えば、「目標を立てた運動」(回数を決めた筋トレや全力疾走を何度も繰り返すインターバルトレーニングなど)はレジリエンスの向上に効果があると言われています。
自分の立てた小目標の達成経験や体力の限界を乗り越える経験を通じて、自己効力感(「自分はできる」と思える力)が培われるのです。
他にも、就寝前にその日にあった『よいこと』を三つ書き出し、これを一週間続ける「three good things」もレジリエンスの向上に有用です。
「three good things」に関しては、その人の悲観的な物事の捉え方(認知のクセ)を改善する効果があり、「人生の幸福度を上げる」効果が科学的に証明されており、うつ病を患った方の治療法の一環としても利用されています。
TwitterなどのSNSに“#3good”というハッシュタグがあり、毎日の報告が活発にされているので皆さんも利用してみてはいかがでしょうか。
次回もレジリエンスをテーマにお話をさせていただきます。
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鈴木 裕介
ハイズ株式会社 事業戦略部長
日本内科学会認定内科医
2008年高知大学医学部卒業。一般内科診療やへき地医療に携わる傍ら、高知県庁内の地域医療支援機構にて広報や医師リクルート戦略、 医療者のメンタルヘルス支援などに従事。2015年より現職。