DOCTORビジネス健康術
一覧へ戻る新しい職場のストレスの正体をつかむ②

今回も、新しい職場特有のストレスについてお話させていただきます。
今回紹介するのは、アメリカの社会学者Everett Hughesが提唱した「リアリティ・ショック」という概念です。
「こんなはずじゃなかった!」というショック
リアリティ・ショックとは、新人職員がその職場に入る前に抱いていた理想や期待と、現実とのギャップから受けてしまう衝撃のことです。
要は「思ってたんと全然ちゃう!」というショックのことです。
現実のギャップに傷つき、無気力感・喪失感・不安が生じ、進行すると抑うつ状態に至ることもしばしばあり、早期離職の大きな要因として懸念されています。
新人だけでなく、ベテラン職員であっても、異動などの大きな環境変化があるとリアリティ・ショックに陥ると言われています。
前回紹介したリスガードのU字曲線における「ハネムーン期」が終わり、新人特有の幻想が冷めて続々と「カルチャーショック期」に移行する時期に、まさにこのリアリティ・ショックが起こります。
対策は、「期待値のコントロール」
リアリティ・ショックに関しては、看護師などを対象に専門的な研究が進んでおり、労使両側にさまざまな対策が提唱されています。
キーワードは「期待値のコントロール」です。 まずは、入職前の「RJP」が有効だとされています。
RJPとは、Realistic Job Previewの略で、職場や職務に関しての「現実的な」事前情報提供という意味です。
具体的には、入職に至る前段階で、仕事の良い面、悪い面の両方をふまえた現実的な像を、できる限り正確に伝えるということです。
参考文献:「エントリー・マネジメントと日本企業のRJP指向性」(金井壽宏 1994)
金井らの研究によれば、RJPによって、新入職員の過剰な期待は抑制され、リアリティ・ショックは緩和され、入社後速やかに自分の役割を自覚した、という結果が報告されています。
興味深いのは、現実的な情報提供をしたからといって、実際に採用実績は低下しなかったということです。
お互いの期待値を、事前に調整しておくことが双方にとって得である、というのは全てのビジネスにおいて成り立つのかもしれません。
新人側であれば、入職前に現実的な側面についての質問をしてしまうのも手です。
ハードルが高い場合は、インターンシップや、OB訪問など様々なつながりをつかってなるべくリアルな情報を得ていくのが良いでしょう。
実際に陥ってしまったら?
実際にリアリティ・ショックに陥ってしまったらどうすればいいのでしょうか。
まずは、不適応を起こしている現状を冷静に見つめ直す事が必要です。
「全て職場が悪い」とするのではなく、自分のどこに過度な期待があったのか、不満の中でもどこが最も許しがたいことなのかなど、ひとつひとつ検証していきましょう。
一言で言えば、「職場環境から与えられるものの期待値を下げる」ということです。
100点だと思っていた場所が実は60点だった、という現実をまずは受け入れた上で、その環境でも自分は何が出来て、何が学べるか、という「役割」を意識しましょう。
リアリティ・ショックは成長のきっかけでもある
たとえ職場環境から多くの学びを得られなくても、世の中には仕事に関する書籍など多くの有益な情報源があります。
職場での「役割」を把握したで、自分の主体的なインプットを実践する場として、したたかに成長の機会にしていく。そうしていくことでいつしかブレイクスルーが得られることも多いのです。
成果を上げる職員の共通した特徴として、リアリティ・ショックのようなキャリアの危機を、必要な「成長の機会」として捉えて自分の成長に役立てるという思考があります。
こうした考え方を身につけることができれば、非常に優れたストレス対処能力を得ることができるでしょう。
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鈴木 裕介
ハイズ株式会社 事業戦略部長
日本内科学会認定内科医
2008年高知大学医学部卒業。一般内科診療やへき地医療に携わる傍ら、高知県庁内の地域医療支援機構にて広報や医師リクルート戦略、 医療者のメンタルヘルス支援などに従事。2015年より現職。