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一覧へ戻る医療の観点で考える「海外旅行保険」の選び方入門

海外への出張や旅行の際に、どのような準備をしますか?
スケジュールを立て、飛行機やホテルの手配、現地通貨への両替から当日の荷造りまで、海外旅行前はたくさんのタスクに追われます。そんな中で後回しにされがちなのが、もしものための備えである「海外旅行保険」です。
私自身も以前は海外旅行保険ナシで海外に行っていました。しかし、今となっては「海外旅行保険なくして海外旅行なし」だと思っています。
忙しいビジネスパーソンのみなさんも「海外旅行保険って本当に必要なの?」と感じている方も多いのではないでしょうか。
今回は、海外での健康トラブル対策としての「海外旅行保険」を医療の観点からお話したいと思います。
※本記事では、海外旅行保険の医療保険に関わる部分のみを扱います。損害保険や死亡保険については扱いません。ご了承ください。
海外の医療費はほんとうに高い?
「海外の医療費は日本より高い」とよくいわれます。では、どのくらい高いのでしょうか?
まず、医療費が世界で最も高いといわれるアメリカでは、初診料が100〜300ドル(約1〜3万円※)で、日本の初診料は約3000円なので、3〜10倍になります。
しかも、日本は国民皆保険で自己負担は3割なので、自己負担額の比較では9〜30倍にもなります。入院した場合は1日あたり数千〜1万ドル(数十万〜100万円※)を請求されるそうです。
他の国々も、アメリカほどではないものの、医療費は日本より総じて高いと考えるほうが無難です。
一部には高額な医療費を支払うことになったケースもあります。
オーストラリアに滞在していた日本人旅行客が、早朝に頭痛を感じて救急搬送され、くも膜下出血の診断で手術を受けて、12日間の入院ののち、看護師付き添いで緊急搬送された例では、費用は1200万円以上にもなったそうです。
(ジェイアイ傷害火災保険トラブルデータより) ※1ドル100円換算
海外旅行保険選び3つのポイント
海外旅行保険を選ぶ際に、確認すべきポイントは以下の3点です。
1)カバーされる範囲
2)支払限度額(保険金額)
3)キャッシュレスサービスの有無
まずは、海外旅行保険でカバーされる範囲とその支払限度額です。
治療の費用とともに、入院した際に家族が駆けつけるための費用(救援者費用)についても内容を確認しましょう。
支払限度額は「無制限」が望ましいです。ほとんどの海外旅行保険では「持病の悪化」は対象外となっていますが、持病のある方は「持病の悪化」がカバーされる保険を選ぶべきです。
また、渡航先によっては医療提供体制が整っておらず、重症の場合、国外の医療施設への搬送が選択肢となることもあります。
国外への緊急搬送は1000万円以上の高額の費用がかかるため、これが保険でカバーされるか確認したほうがいいでしょう。
ちなみに、クレジットカードに付帯している海外旅行保険は支払限度額が数百万円程度と低めの設定になっているものが多いです。ご自身の健康リスクに見合う支払限度額なのかを検討した上で判断するのがいいと思います。
現地で医療費が海外旅行保険から直接支払われる「キャッシュレス受診サービス」はおすすめです。
キャッシュレス受診サービスがついていれば、窓口で自分が現金払いせずにすみます。 最近はネット海外旅行保険も増えてきたので、”なんとなく保険選び”や”安さだけで保険選び”になりがちです。
上記3つのポイントを押さえて、『適切な保険選び』にしましょう。 とはいえ、海外旅行は「楽しむ」ものです。海外旅行保険を選ぶ際もコストやリスクだけでなく、海外旅行を「楽しむ」ために、どんな海外旅行保険が自分にとって必要なのかという視点で考えてみるのも大切かもしれません。
※筆者に海外旅行保険に関係する利益相反はありません。
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岩本 修一
ハイズ株式会社 人材育成戦略部長
内科医(総合診療医)
Certificate in Travel Health®(国際旅行医学会認定資格)
2008年広島大学医学部医学科卒業。内科医として内科診療や渡航外来、医学教育に従事。医療職に対してコミュニケーション学やEBM、プレゼンテーションの教育に携わる。2016年より現職。