DOCTORビジネス健康術
一覧へ戻る忙しいビジネスパーソンのための便秘対策
巷ではうんこ漢字ドリルが大流行中ですね。
そんな人気にあやかって今回ご紹介するのは、“うんこ”にまつわる最もポピュラーな病気、「便秘」です。
たかが便秘と侮るなかれ、中には大腸癌のような重大な疾患が隠れていることがあるのです。
忙しいビジネスパーソンの皆様は「便秘で病院にかかる時間なんてない!」と思うかも知れませんが、以下の基本事項だけは是非覚えておいて頂き、必要があれば適宜受診をして下さい。
便秘の定義は様々なのですが、世界的に医師がよく使うのはRome基準というものです。
この基準を簡単に言えば、週に2回以下、つまり3日に1回以下しか便が出ない時期が長く続いていれば立派な便秘症ということです。
便秘の原因は大きく以下の3つに分けられます。
① 物理的な障害があり、便が詰まっているパターン
② 水分が足りなく便が硬いパターン
③ 腸の動きが悪く便が動かないパターン
最も危険な便秘は、大腸癌に代表される①です。
大腸癌が進行して腸の内腔、つまり便の通り道が狭くなったことで便が出にくくなることがあるのです。
そのため、大腸癌は便の状態から疑えます。
特に、下痢と便秘を繰り返す場合、便が細くなってきている場合、便に血が混じっている場合などは、より強く大腸癌の可能性を疑います。
大腸癌は早期の段階ではほぼ無症状。
癌が徐々に大きくなり、腸が完全に詰まる「腸閉塞」になって初めて激痛が走ります。
癌を少しでも早く見つけるため、便に異常を感じたら受診をお勧めします。
特に40歳以上の方や、親族に大腸癌患者がいるという方で便の状態に心当たりがあれば、ぜひ一度検査を受けてみてください。
他にも、お腹を手術した事がある方は、腸の壁同士などがくっつく「癒着(ゆちゃく)」によって便の通り道が狭くなることがあります。
基本的に外科手術が必要ですので、この場合も早めに受診してください。
とはいえ、便秘症に大腸癌が隠れていることは稀で、便秘症の多くを占めるのは②や③のタイプです。
多くの医師はまず便秘薬で様子を見ることが多いです。
便秘薬は、便秘のタイプに応じて選択しています。
②の水分が足りていない方には、腸内の水分を便に集める効果が大きい、酸化マグネシウム製剤のような薬が処方されます。
腸の動きが悪い③の方に処方されることが多いのは、腸が便を送り出す「蠕動(ぜんどう)」を強める薬(医薬品名:センノシド)です。
市販の便秘薬は、早く効いて効果も高いセンノシドを含むものが多いのですが、センノシドは徐々に効き目が弱くなってしまうことに注意が必要です。
ここで興味深いエピソードを御紹介します。
病院に行く時間がなく、センノシドを含む市販の便秘薬を自分で購入して飲んでいた、ある多忙なキャリアウーマンの患者さんがおられました。
市販薬を飲む量が少しずつ増えてしまい、最終的には1回で1パック全て飲まないと便が出なくなってしまったのでした。
彼女の便秘は、おそらく腸を動かす③の薬よりも、水分を増やす②の薬が必要であったケースで、薬の選択を間違ってしまったのでしょう。
「たかが便秘」と自己判断に頼りすぎず、良くならなければ早めに受診してください。
できれば薬に頼るばかりでなく、生活習慣の改善も一緒に行えると理想的です。
②のタイプは便を柔らかくするために水分を摂ること、食物繊維や乳酸菌飲料の摂取がお勧めです。
食事に細かく気をつかう時間のない方は、500mlペットボトルの水をいつもより1本多く飲んでみてはどうでしょう。
③のタイプは、ウォーキングや体操をして血流を良くし、腸の動きを改善しましょう。
ジムに通う時間なんてないという方は疲れを取る意味でも入浴することをオススメします。
便秘対策で重要なのは、まずは自分が①~③のどのタイプの便秘なのか理解することです。
繰り返しになりますが、対策をしても改善しない便秘には病気が隠れている可能性もあります。長引く場合は早めに病院を受診してくださいね。
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石井 洋介
消化器外科医として勤務医時代を過ごした後、厚生労働省の医系技官として政策立案業務に携わる。現在は在宅医として地域医療業務をこなしながら、医療機関経営コンサルティング・ヘルスケア企業アドバイザリー・ヘルスケア系ベンチャー支援業務等を行っている。