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一覧へ戻る「正しい怒り方」 そのイライラ、どうすべき?
先日、いつも温厚な友人からこんな質問を受けました。
「きょう、前の会社のたいして仲良くない先輩から、すごく失礼なこと言われて。
あまりに腹が立ったから、ひとこと言ってやろうかと思ったんだけど、結局何も言わなかったんです。
どうすればよかったのかな? 私の気にしすぎなのかな。」
今日は、アンガーマネジメント実践編として、この質問に答える形で「怒りの正しい対処方法」について説明します。
「正しい」怒り方
相手の行動に許せない、と思った時に、どうするか。
アンガーマネジメントの考え方には、こうしたときに「正しく怒る」ための行動指針があるのです。
まず、「ムカつくなあ」「腹が立つなあ」と思った出来事を、次の2つの軸で考えます。
1) その状況を自力で変えることが可能かどうか?
2) それは今の自分にとって重要な出来事かどうか?
2軸で切り分けた4つの「箱」をイメージして、自分に起こった出来事を分類します。
左上の「あなたが変えられる状況で、かつ重要な出来事」だった場合、「いますぐ努力して事態の改善を図る」ことが正解です。
そのときに、いつまでにどの程度状況が変わっていたら自分が満足なのかを決めて動きましょう。
例)社運をかけたプロジェクトで、部下が重大なミスをしたときは、その日のうちにできる対処をすると同時に、二度と起こらないような仕組みを、部下と一緒に考える。
左下の「あなたが変えられる状況であるが、それほど重要ではない出来事」の場合は、「今すぐ対処する必要が無いので、余力がある時にする」のが正解です。
例)部下がプロジェクトの中で小さなミスをした時、それがまた起こらないための対策を次のミーティングの時に一緒に考えよう、と伝えておく。
右上の「あなたが変えられない、重要な出来事」の場合、シビアですが「まずはその現実を受け入れる」のが正解です。
変えられないという事実を受け入れた上で、今の状態で現実的に自分ができる範囲での行動を探すことが正しい対処になります。
例)交通渋滞で大事な会議に間に合わないとき。いったん苛立つ感情を横に置き、遅刻の連絡を必要な人すべてに滞りなく連絡した上で、会議に必要な情報を整理したり、音楽を聴いたりアンガーマネジメントのテクニックを使ってイライラを抑えるよう努める。
右下の「あなたが変えられない、重要でもない出来事」の場合、これは「放っておく」のが正解です。
正確には、許せない気持ちはあっても、放置する努力をする、ということです。
浮かんできた怒り感情は認めつつ、行動はせずに感情の対処として友人に愚痴をいう、深呼吸をするなど様々な方法で落ち着かせます。
放置する努力をすることで、怒りにくい体質になり許容力が広くなっていきます。
例)帰りの電車に乗っている人のマナーが悪く、とても不快な思いをした。満員電車で、席も遠くどうしようもなかった。最寄り駅のジムで一汗流して帰宅した。
怒りに対して、自分の中で納得する対処を決めておくと、もやもやした気持ちが長続きしにくいです。
「4つの箱」はその分類にとても役に立つ方法です。
冒頭の友人のケースでこの箱の分類を活用すると、他人の行動は「自分には変えられない」し、今の仕事とも関係ない相手なので「重要じゃない出来事」になります。
なので、なにもせず「放置する」のが正解でしょう。
一方で、荒ぶった感情に対しては「友人に相談する・グチる」という対処行動ができており、とてもよいマネジメントを発揮したと思います。
自分の怒りを見つめなおしてみる
怒りにずっととらわれているのは精神衛生上、好ましくありませんが、いったん気持ちが落ち着いたあと、自分の感じた怒りを振り返ってみることは効果的です。
なぜなら、私たちが怒りを感じるのは、「自分が大事だと感じている価値観が裏切られたとき」だからです。
嫌な出来事によって、自分のどういう価値観が裏切られたのか、というのを突き詰めて考えることは、自己理解をすすめることになります。
価値観を深掘りすることで、怒りパターンを自覚し、ストレス耐性が向上することだけでなく、自分の根本にあるモチベーション・やりがいを見つめ直すことにもつながり、それは個人の生産性アップにも大きく貢献します。
日本の職場は、働く人の感情がないがしろにされやすく、それがストレスや不適応の温床となっているように思います。
だからこそ、「自分の感情に寄り添う」というアプローチが、ストレスマネジメントの観点からも、実はとても大事だと強く感じています。
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鈴木 裕介
ハイズ株式会社 事業戦略部長
日本内科学会認定内科医
2008年高知大学医学部卒業。一般内科診療やへき地医療に携わる傍ら、高知県庁内の地域医療支援機構にて広報や医師リクルート戦略、 医療者のメンタルヘルス支援などに従事。2015年より現職。